-研究概要-


2.ペルオキシソームの形成およびその障害による病態発症の分子機構

F. エーテル結合型リン脂質プラスマローゲンの生合成

 グリセロリン脂質の一種で,sn-1位にビニルエーテル結合を有するプラスマローゲンは,生体に広く分布するが,とくに脳・中枢神経系に多く存在する(図5)。プラスマローゲン欠損性変異細胞は活性酸素種(ROS)に対して感受性が高いことが示されるなど生体膜酸化のスカベンジャーとしての機能が類推されているが,生理的条件下において産生されたROSによる生体膜酸化を防御しているのかは不明である。



図5.代表的なプラスマローゲンの構造
 プラスマローゲンはグリセロ骨格のsn-1位にビニルエーテル結合を有するグリセロリン脂質である。

 プラスマローゲンの欠損や減少は,神経機能障害を呈するペルオキシソーム欠損症,斑状軟骨形成不全症 (RCDP)や孤発性アルツハイマー病などでも報告されており,プラスマローゲンの恒常性維持も脳の機能発現に重要であると推察される。
 エーテルリン脂質プラスマローゲンの生合成は,全7段階の反応を経て小胞体で完了する(図6)。 初期の2段階の反応は,acyl-dihydroxyacetonephosphate (acyl-DHAP)のアシル基がalkyl-dihydroxyacetonephosphate synthase (ADAPS)によって長鎖アルコールへと置換され,エーテル結合を有するalkyl-DHAPがペルオキシソームにおいて生成される。 その後,小胞体においてsn-2位への脂肪酸転移,sn-3位のエタノールアミンの付加,ビニルエーテル結合の形成を経て完了する。 私たちは,プラスマローゲンの生理機能および生合成制御機構を明らかにすることを目的とし,プラスマローゲン合成不全性CHO変異細胞ZPEG251の分離に成功した。次いで,プラスマローゲン合成に必須な長鎖アルコール合成酵素がペルオキシソームの膜蛋白質であるfatty acyl-CoA reductase 1 (Far1)であること,また,プラスマローゲン生合成は細胞内プラスマローゲン量依存的なFar1の活性制御により調節されることも明らかにした(図7)。ちなみに、プラスマローゲン合成に必須なPEX7DHAPATADAPSはRCDPの病因遺伝子として同定されている(I型、II型およびIII型)。最近、FAR1およびPTS2タンパク質輸送に必須なPex7pと結合能を有するPex5pL型アイソフォームに変異を有する患者が報告され、それぞれRCDP-IV型、V型に分類された(表3)。 現在プラスマローゲンの恒常性維持がどのような生理的意義をもつのかを明らかにすべく研究に取り組んでいる。


図6.プラスマローゲンの生合成経路
 プラスマローゲンの生合成は、ペルオキシソームで開始され全7段階の反応を経て小胞体で完了する。

図7.プラスマローゲンの生合成調節
 プラスマローゲンの生合成は、fatty acyl-CoA reductase 1 (Far1)のプラスマローゲン依存的な安定性調節によって制御される。プラスマローゲンは、ペルオキシソームには存在せず、小胞体あるいは細胞膜などのポスト-ゴルジ領域に存在する。すなわち、これらの細胞小器官におけるプラスマローゲン量が感知され、その情報がペルオキシソームへ伝達されることでFar1の安定性が制御されると推察される(点線)。DHAPAT: dihydroxyacetonephosphate acyltransferase, ADAPS:alkyl-dihydroxyacetonephosphate synthase

表3. 斑状軟骨形成不全症(RCDP)の病因遺伝子


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  1. はじめに
  2. ぺルオキシソームの形成とその障害による病態発症の分子機構
    1. ペルオキシソームとは…
    2. ペルオキシソーム病
    3. ペルオキシソーム欠損性動物変異細胞の分離
    4. ヒトペルオキシソーム形成異常症の全相補性群病因遺伝子の解明
    5. PEXタンパク質(peroxin)の機能
    6. エーテル型リン脂質プラスマローゲンの生合成
    7. ペルオキシソーム欠損による障害と病態発症
  3. テイルアンカー型タンパク質の輸送と品質管理

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